短い瀞場の後、大きな岩々の間を回り込みながらだんだん水流が速くなってきた。気分も高ぶってきた。
眼前開けるとそこは「森囲いの瀬」。すぐに「場」に飲まれてしまった。
直線コースに乗る前に、ちょっとした落ち込みを斜めに横断して左岸側のエディーに入り、一息付くのを常としている。いつもこの落ち込みを斜めに横断するところで、バランスを崩して沈しないか不安になってしまう。
今回もこの不安に襲われながら、目指すエディーに向けて思い切って漕ぎ出した。
しかし、スタート地点が下流すぎた。流れに押されてエディーの下外れに着いてしまった。初歩的なミスだ。すでに通常の思考が奪い取られている。
必死に漕ぎ上がろうとするものの、むなしく流れに押される。いつもと違うパターンにかなり気が動揺した。この動揺は艇にも伝わり、ちょっとしたことで沈してしまうような不安定さに包まれた。
今考えると、「ナイヤガラの滝」に対して恐がり過ぎていた。この落ち込みのホールに捕まるのを過度に恐がっていた。もし捕まっても沈脱すれば済むことなのに。
漕ぎ上がりを諦め、下流を目指し方向転換。
この瀬を落ち着いて漕げたことがないので、どこに何があるのか未だによく分かっていない。「ナイヤガラの滝」はどこだ!と気が焦った。この落ち込みか!次の落ち込みなのか!
動揺のうちにあっけなく沈してしまった。そのまま続く落ち込みをロールセットポジションでクリアしようとした次の瞬間、ガツンと身体に衝撃が走った!その衝撃に浸る間もなく、すぐにロールアップした。次こそ「ナイヤガラの滝」だったのだ。痛さに耐えて無事クリア。
「森囲いの瀬」の中間の休息地。
親指の付け根の一部が異様に腫れあがっている。親指は動く。骨折は免れたようだ。しかし、パドルシャフトをしっかり握ることができない。脱臼の古傷を負う右肩も痛い。側頭部もズキズキする。
まだ後半の瀬が残っている。ここも浅い。最後の落ち込みで沈してしまったがここは深くて助かった。
みんなには大丈夫、大丈夫と答えても、もう闘志は失せていた。ヘルメットを脱ぐと側頭部が腫れている。もしヘルメットを被っていなかったら、間違いなく頭は割れていただろう。まだまだ続く難所を無事にクリアする自信がない。リタイヤを宣言。
「これから(の人生)まだまだ漕ぐんだから、無理はしないほうがいい。」と言われた。
この言葉にやっぱり「小歩危」は普通ではないんだと感じた。
スタート地点に置かれた車に一人とぼとぼ歩いて帰る道すがら、こう思った。「上から眺めると、何てことないように見えるんだけどなあ。」
「まだ小歩危やれるか?」と自問した。
「もちろん!」と答えた。
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